025:「交渉技能」の存在

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 今度は、ゲームシステムとロールプレイについて考えてみましょう。

 ゲームシステムによっては、キャラクターに「交渉」という能力や技能が用意されている事があります。

 しかし、この能力(あるいは技能)、ロールプレイ重視でTRPGをしている時は、結構邪魔な物である事が多いんですね。

 ちょっと一例をあげてみましょう。


 悪人が女の子の人質を取って、民家に立てこもっています。
 そこで、騎士のキャラクターが「自分が人質になる代わりに、人質の女の子を開放して欲しい」という説得を行おうとしました。
 騎士のキャラクターが民家の前に歩み出て、こう言ったとします。

「 君、か弱い女子を人質に取るとは、恥ずかしいと思わないのかね。それよりも、代わりに私が人質になろう。
 こう見えても私は騎士の出身。身代金は私の方が多く取れるだろう。
 当然、私は武器も持たないし、この鎧も脱ごう。必要なら後ろ手を縛った状態でそっちに行っても良い。
 だから、その人質と私を交換したまえ。」

 ゲームマスターも、他のプレイヤーも、この台詞は非常に良いものであると考え、ゲームマスターは騎士の交渉技能に高いボーナスを与え、ルールに則って成功判定をさせました。

 しかし、騎士のプレイヤーは非常にダイス目が悪く、なんと判定に失敗してしまいます。

 ルールに則るとこの交渉は失敗でしたが、プレイヤー達は収まりがつかず、マスターを糾弾します。
 マスターもこの交渉は成功するはずだと考え、「ルールを無視する」決心をし、騎士の交渉を成功と判断しました。


 一例ではありますが、いかにもありそうな状況だとは思いませんでしょうか?
 一般的には「ゲームを面白く、エキサイティングにする為には多少のルール無視・変更は許される」という意見が有力ですから、このマスターの判断は誤っているとは言えないでしょう。

 しかし、「キャラクターを表すルール」であるはずの第3世代TRPGに、何故、このような「ルールプレイによっては無意味になるルール」があるのでしょうか?
 逆に、ルールに従った上で、全員が納得できるルールの適用方法、というのは無いのでしょうか?

 そこで、色々と考えてみましたが、このように考えてみてはいかがでしょうか。

 騎士は、確かにプレイヤーが宣言した事と同じ事を考え、いざ言おうとしました。
 しかし、緊張のあまり騎士の声は小さく、悪人には届きませんでした。悪人からはただ騎士が近づいてきただけに見え、警戒心を抱かせてしまったのです。
 あるいは、その台詞を言おうと一歩を踏み出した瞬間、それが悪人を刺激してしまい、聞く耳を持たせなくしてしまったのです。
 もしくは、最初の「恥ずかしくないのかね」という台詞を、彼が高潔な騎士であるが故に侮蔑的に言い放ってしまい、悪人を逆上させてしまったのです。

 交渉というのは、台詞の応酬を含めて成り立つ事ですから、「交渉に失敗した」という事は、どれだけ見事なプランニングがなされていても、そのプランニングが通用しない結果となった事を表すはずです。
 ということは、上記のように考えれば、交渉の失敗は頷けるのではないでしょうか?

 今やTRPGのルールは「キャラクターを表現する物」へと変化しました。
 その中に「交渉」という要素がある以上、「交渉」もキャラクターを表現するもののはずです。
 つまり、どれだけ素晴らしい台詞を考えついたとしても、それを上手く活用できないのが「交渉能力が低いキャラクター」であるという事ですし、交渉が得意な人間でも予想外の展開になってしまう事がある、というのが交渉のルールという事ではないでしょうか?

 それを考えると、おいそれと「交渉能力に力を割り振らないキャラクター」というものは尽作れなくなってしまいますね。

 しかし、「交渉能力」とは、こう考えてみるのが妥当かも知れません……

この記事を書いた人 Wrote this article

如月翔也

 如月翔也です。TPGとアナログゲーム、PCが大好きな中年男です。このブログでTPGについて色々触れています。コメントを貰うと非常に喜ぶのでお気軽にコメントをお願いします。