今度は、ゲームシステムとロールプレイについて考えてみましょう。
ゲームシステムによっては、キャラクターに「交渉」という能力や技能が用意されている事があります。
しかし、この能力(あるいは技能)、ロールプレイ重視でTRPGをしている時は、結構邪魔な物である事が多いんですね。
ちょっと一例をあげてみましょう。
悪人が女の子の人質を取って、民家に立てこもっています。
そこで、騎士のキャラクターが「自分が人質になる代わりに、人質の女の子を開放して欲しい」という説得を行おうとしました。
騎士のキャラクターが民家の前に歩み出て、こう言ったとします。
「 君、か弱い女子を人質に取るとは、恥ずかしいと思わないのかね。それよりも、代わりに私が人質になろう。
こう見えても私は騎士の出身。身代金は私の方が多く取れるだろう。
当然、私は武器も持たないし、この鎧も脱ごう。必要なら後ろ手を縛った状態でそっちに行っても良い。
だから、その人質と私を交換したまえ。」
ゲームマスターも、他のプレイヤーも、この台詞は非常に良いものであると考え、ゲームマスターは騎士の交渉技能に高いボーナスを与え、ルールに則って成功判定をさせました。
しかし、騎士のプレイヤーは非常にダイス目が悪く、なんと判定に失敗してしまいます。
ルールに則るとこの交渉は失敗でしたが、プレイヤー達は収まりがつかず、マスターを糾弾します。
マスターもこの交渉は成功するはずだと考え、「ルールを無視する」決心をし、騎士の交渉を成功と判断しました。
一例ではありますが、いかにもありそうな状況だとは思いませんでしょうか?
一般的には「ゲームを面白く、エキサイティングにする為には多少のルール無視・変更は許される」という意見が有力ですから、このマスターの判断は誤っているとは言えないでしょう。
しかし、「キャラクターを表すルール」であるはずの第3世代TRPGに、何故、このような「ルールプレイによっては無意味になるルール」があるのでしょうか?
逆に、ルールに従った上で、全員が納得できるルールの適用方法、というのは無いのでしょうか?
そこで、色々と考えてみましたが、このように考えてみてはいかがでしょうか。
騎士は、確かにプレイヤーが宣言した事と同じ事を考え、いざ言おうとしました。
しかし、緊張のあまり騎士の声は小さく、悪人には届きませんでした。悪人からはただ騎士が近づいてきただけに見え、警戒心を抱かせてしまったのです。
あるいは、その台詞を言おうと一歩を踏み出した瞬間、それが悪人を刺激してしまい、聞く耳を持たせなくしてしまったのです。
もしくは、最初の「恥ずかしくないのかね」という台詞を、彼が高潔な騎士であるが故に侮蔑的に言い放ってしまい、悪人を逆上させてしまったのです。
交渉というのは、台詞の応酬を含めて成り立つ事ですから、「交渉に失敗した」という事は、どれだけ見事なプランニングがなされていても、そのプランニングが通用しない結果となった事を表すはずです。
ということは、上記のように考えれば、交渉の失敗は頷けるのではないでしょうか?
今やTRPGのルールは「キャラクターを表現する物」へと変化しました。
その中に「交渉」という要素がある以上、「交渉」もキャラクターを表現するもののはずです。
つまり、どれだけ素晴らしい台詞を考えついたとしても、それを上手く活用できないのが「交渉能力が低いキャラクター」であるという事ですし、交渉が得意な人間でも予想外の展開になってしまう事がある、というのが交渉のルールという事ではないでしょうか?
それを考えると、おいそれと「交渉能力に力を割り振らないキャラクター」というものは尽作れなくなってしまいますね。
しかし、「交渉能力」とは、こう考えてみるのが妥当かも知れません……