さて、このコラムでは「戦士」「魔法使い」「神官」と、ファンタジーRPGの定番クラスの3つまでを題材にしてきました。
定番クラスとして、残るは「盗賊」ただ一つです。
今回は、この「盗賊」キャラクターについて、軽く触れてみましょう。
「盗賊」について最初に書くべきなのは、実際の中世ヨーロッパとファンタジーTRPGでの盗賊は全く別物である、という点です。
ファンタジーTRPGでの盗賊は戦ったり、罠を解除したり、情報を集めたり、交渉したりと、ある意味ではパーティの雑用係とでも言うべき様々な能力を駆使する存在です。
それに対し、実際の盗賊はそのまま「こそ泥」であり、人の財布を狙って生きているハイエナであり、ただの無法者です。
このイメージの違いは、TRPGと現実の騎士の違いに匹敵する程のものがありますね。
では、実際にリアリティのある盗賊とは、どちらなのでしょうか。
私は、騎士の時に至った結論と同じく、「ファンタジーTRPGの盗賊」の方がリアリティがあると思います。
これについてはイメージの問題や、ゲーム的な問題もありますが、ファンタジーTRPG特有の世界観に基づくリアリティがあるからです。
ファンタジーの世界でも、現実と同じく「盗み」には罰が下されるのが普通です。
ですから、あえて「盗賊」になるような人間は、今日の糧すら危うい、非常に悲しい境遇の人々である事は容易に想像がつきます。
現実世界であれば、そこらには儲け話も宝も転がっていませんから、人のものを狙うしか生き延びる術がない事も十分に考えられるでしょう。
しかし、ファンタジーの世界は違います。
絶えず戦争や戦いが起きている世界ですから、戦いに身を投じる事で生きるチャンスを得る事ができますし、冒険者としてパーティの雑用係をこなす事で糊口を凌ぐ事もできます。
むろん、この選択はどちらも命を賭ける事になりますから、それを恐れる者は人のものを狙う事になりますが、それは選択した結果悪人になっているという事であり、「英雄候補」としては失格なのです。
絶えず戦争や戦い、冒険が転がっている世界である事を考えれば、貧しい人々が戦争や冒険に一縷の望みを見出そうとする事は自然な事ですし、そうであればパーティに最低1人の盗賊がいるのも頷けると思います。
また、盗賊は戦士ほど強くもなければ、神官や魔法使いのような特殊能力を持っている訳ではありませんから、パーティに残るために「何でもできる」事を目指して壮絶な努力を払うのも頷けるでしょう。
このようにして、ファンタジー世界の盗賊は戦い、冒険に挑戦し、そして様々な技術を駆使するようになるのです。
こう考えると、盗賊は悪人ではなく、むしろ「最後の一線」を踏み外さないように日夜努力している「日常の聖者」なのかも知れませんね。
さて、貴方のパーティの盗賊は、悪人なのでしょうか。
それとも……?